2024年3月28日
春の夜、雨が降りしきる。季節によって雨の音は違って聞こえる。春の雨は春を纏っている。それはほの暗い。生暖かい泥のような手触り。病的な温度だ。
土地によって、匂いは違っている。雨の降り方も違っている。地元に帰ってくるとそれを思い出す。隣町にはどんな雨が降るのか、私は知らないまま死んでいくだろう。
生きているうちに、できるだけ多くのものを見ておくべきだろうか。それとも、そう言った努力は徒労に終わるだろうか? どうせなら見てみたいものもある。でも、今は酷く疲れていた。暗い部屋で蹲って一生が終わっても、あまり悔いることもなさそうだった。悔いるのにもある程度の気力と、命が必要だ。
自分にできることがなにかあるのだろうか。雨の滴る音に耳を傾ける。降りしきる音に、ひややかさと、わずかな熱を感じる。
何もないとしても、できることをしなければならない。そしてその勇気がない。
この町が私たちを静かに包みこんでいる。この町の雨の音が、私たちに雨を教える。
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