作品

小説

未必の見殺し

昼夜が巡って、ぼんやり徹夜明けの頭で、口癖みたいに自分を罵っている。 溜め込んだ洗い物に洗剤を垂らし、包丁をスポンジで拭う。  これからどうしようか。 殺人者は今しがた人を殺したナイフを洗い流しながら、そんなことを考えたりしないだろうか。 ...
短編小説

エンドロール.クライシス

日の光が浅く、ノウルを焼き殺していくのを見ていた。  陽光が私たちを殺すことは知っていた。でも、ノウルが私のために死ぬなんて、そんな事は知らなかった。 「かえ、す、よ」  ノウルの声は焼けただれていた。長い腕を伸ばして、ノウルは影の中の私に...
短編小説

赤光

一人の男が歩いている。 彼は、人殺しだ。 何人も殺した。その数も、顔も覚えていなかった。家族を殺したし、そうでないものも殺した。彼が歩きながら感じていたのは、息も詰まるような憎しみだった。 「みんな、死んじまえ……」 男は呟きながら歩いた。...
小説

地下回廊

回廊が、長く暗い回廊が続いている。 地下室への道をぼくは歩いていた。かび臭い通路、生き物の這う気配、滴る雨漏れ、外は嵐だ。 蜘蛛を踏みつけた。回廊のどこかで、壁を引っ掻くような音がしていた。 昨日、夢を見た。暗い地の底で、血まみれになった壁...

ポロニウム

正直言って。 何も話したくない。 何もしたくないし、どこにも行きたくない。 だから黙っている。留まろうとする。 時計の針がいつも同じ速度で廻るなら、僕はそれを耐えるだけだ。 カーテンを締め切って、毛布に潜り込んで、時計の文字盤は虚ろだ。時間...
小説

たましいの、るてん

目次 第1話 バッドエンドのその先へ!魂の心縁世界《エーピア》第2話 地獄の底からリスタート!彼女の前世は魔王
短歌

短歌集01

波 半熟の黄身が滴るテーブルに 君がいなくてくずれてる朝 あの窓を割ったのだって君のため全部壊すよだから笑って 隕石のように降るからクレーター 君の形にへこんでく僕 ねぇ呼んで 僕のことなど忘れてもいいけどだけど忘れられない もう君に届かな...
小説

きみはユーレイ

ぼくは死んだら、消えてなくなると思ってた。  だからきみに出会ったとき、本当にびっくりした。きみは、ふわふわ空に浮いてて、しかも半透明で、さわろうとするとすり抜けた。 きみはユーレイなの? って聞いたら、きみは首を傾げて、両手を胸の前にぶら...

【鐘の音】

また、目を閉じた。緩やかに死にたくて。 午前二時。 眠るのが怖い。時計塔が鐘をうつ。 時は私たちからあらゆるものを奪っていくから。柔らかな陽だまりや、繋いだ手の温度。笑み。言葉。親しみ。 影は地平線の彼方へ遠く伸びていく。黄昏。 去ってゆく...